東京地方裁判所 昭和45年(行ウ)121号 判決 1976年2月25日
東京都墨田区東向島二丁目三二番二一号
原告
亀田ヨリ
右訴訟代理人弁護士
津野茂治
東京都墨田区業平一丁目七番二号
被告
向島税務署長
右指定代理人
渋川満
同
岩渕正紀
同
石井寛忠
同
磯部喜久男
同
室岡克忠
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一、原告
被告が昭和四四年一月一四日付で原告の昭和三八年分の所得税についてした更正を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
との判決
二、被告
主文同旨の判決
第二原告の請求原因
一、原告の昭和三八年分の所得税について、原告のした確定申告及び修正申告、これに対する被告の更正(以下「本件更正」という。)の経緯は、別表記載のとおりである。
二、しかし、本件更正は、後記第四の二記載の理由によって違法であるから、その取消しを求める。
第三請求原因に対する被告の認否及び主張
一、請求原因に対する認否
請求原因一の事実は認めるが、同二の主張は争う。
二、被告の主張
1 原告は、昭和三八年六月二一日、札幌市北九条西三丁目所在の原告所有の土地建物を東海ビル株式会社に対し三六四五万円で譲渡した。しかして、原告は、買換資産として、昭和三八年一二月から昭和三九年三月までの間に、東京都墨田区寺島町二丁目一一一番地に車庫及びアパートを五三三万三〇〇〇円で建設し、また、昭和三九年一月一七日別紙物件目録記載の土地建物(以下「本件不動産」という。)を代金二七六七万円で売買により取得したとして、右資産譲渡に係る譲渡所得につき租税特別措置法(昭和三九年法律第二四号による改正前のもの。以下「旧措置法」という。)第三八条の六(事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の金額の計算)の規定を適用し、被告に対し前記修正申告をした。
2 しかしながら、原告による本件不動産の取得が租税特別措置法施行令(昭和四四年政令第八六号による改正前のもの。以下「旧施行令」という。)第二五条の六第二項に該当する代物弁済による取得であることは、次項において述べるとおりであり、しかも、原告が右不動産をその取得の日から一年以内にその事業の用に供した事実は認められない。そこで、被告は、本件不動産の取得に係る二七六七万円については旧措置法第三八条の六の適用を認めず、前記譲渡所得金額を再計算し、前記修正申告に係る譲渡所得金額との差額を前記修正申告に係る所得金額に加算して本件更正をしたものである。
3 すなわち、原告は本件不動産を次のいずれかの経緯により取得したものであり、いずれにしても代物弁済により取得したものである。
(一) 原告の長男亀田幸男がその代表取締役をしている興亜化学工業株式会社は、原告から五二〇万円を借り受け、この借入金を資金として昭和三八年一〇月一七日妹川泰雄、ますみ電機株式会社(代表取締役妹川泰雄)及び宗教法人常福寺(代表役員妹川泰雄)(以下「妹川ら」という。)に対し四五〇万円を、弁済期を昭和三九年一月一六日とし、同日利息として三〇万円を加算して返済するとの約定で貸付け、右債権担保のため、譲渡担保として常福寺から別紙物件目録(一)、(二)記載の土地(以下「(一)、(二)の土地」という。)、妹川から同目録(三)記載の建物(以下「(三)の建物」という。)、ますみ電機から同目録(四)記載の建物(以下「(四)の建物」という。)の各所有権移転を受けた。その後、興亜化学は原告からの右借入金を資金として妹川らに対し、更に、合計六〇万円を貸付けたが、妹川らは右各借入金の返済期限である昭和三九年一月一六日になっても返済資金の都合がつかない状態にあったことから、本件不動産は興亜化学の所有になるところであった。しかし、興亜化学も原告に対し五四〇万円の債務(右五二〇万円の借入金とその利息二〇万円の合計額)を負っていたので、右各関係者は、本件不動産を原告に取得させることによって各債権債務関係の整理を図ることにした。そこで、原告は、興亜化学の妹川らに対する貸付金債権五四〇万円(元本五一〇万円と前記利息三〇万円の合計額)を譲り受け、昭和三九年一月一七日妹川らから右債権に対する弁済に代えて本件不動産を取得した。
(二) 本件不動産は、前記のとおり興亜化学に対する譲渡担保に供されていたのであるが、興亜化学の妹川らに対する貸付金債権の弁済期限である昭和三九年一月一六日の経過に伴い、一旦興亜化学の所有に帰し、その後同年八月二八日、原告は、原告の興亜化学に対する前記債権の代物弁済として、本件不動産を取得した。
(三) 原告は、本件不動産を取得する意思を持ち、原告の資金を興亜化学名義で妹川らに貸付け、右貸付金債権(原告個人名義による貸付債権があれば、これも含む。)に対する弁済に代えて本件不動産を取得した。
第四被告の主張に対する原告の認否及び主張
一 被告の主張に対する認否
被告の主張第三の二1の事実は認める。
同2の事実については、被告がその主張の加算を行って本件更正をしたこと及び本件不動産の取得に係る二七六七万円について旧措置法第三八条の六の規定の適用がないとした場合、原告の修正申告に係る所得金額に加算すべき金額が、被告主張のとおりであることは認め、その余の点は争う。
同3の事実のうち、原告が本件不動産を取得したこと、興亜化学が、被告主張の日に原告から借入した五二〇万円を資金として、妹川らに四五〇万円を被告主張の約定により貸付け、妹川らから譲渡担保として本件不動産の移転を受けたこと、その後も妹川らに合計六〇万円を貸付けたこと、結局、昭和三九年一月一七日現在興亜化学は原告に対し五四〇万円の、妹川らは興亜化学に対し同額の各債務を負っていたことは認めるが、その余の点は争う。
二 原告の主張
原告による本件不動産の取得は、旧措置法第三八条の六に規定する取得に該当し、かつ、その取得の日から一年以内に事業の用に供したから、本件不動産の取得価額について同条の適用を否認したのは違法である。
1 原告は、次のとおり、本件不動産を昭和三九年中売買により取得したものである。
経営不振に陥っていたますみ電機は、前記のとおり興亜化学から融資を受けた後も業績が好転せず、妹川らは興亜化学及び原告に対し更に融資を求めたうえ、本件不動産の買取りを懇願するに至った。原告は、かねてから前記譲渡所得につき旧措置法による事業用資産の買換えの場合の特例を認めてもらうため買換え資産を取得したいとの意向を持っていたので、妹川らの右買取りの要請に応ずることにした。そこで、原告は、昭和三九年一月一〇日妹川らから本件不動産を代金は時価の約八割とし、今後ますみ電機再建のため必要な資金額の検討をまって具体的金額を決定するとの約定のもとに買い受けた。次いで、同月一七日原告と妹川らとの間で同日までに原告から妹川らに対し融資していた三七〇万円を右売買代金に充当し、更に、原告が妹川らに対し、同日五四〇万円、同年二月三日二七万円を右売買代金の内金として支払うこととした、そして、原告が妹川らに対し同年一月一七日支払うこととされた右五四〇万円は、次の方法により支払われた。すなわち、同日現在原告は興亜化学に対し五四〇万円、興亜化学は妹川らに対し五四〇万円の各債権を有していたところ、右三者間の合意により、原告が妹川らに対し右代金の内金として五四〇万円を支払い、妹川らは興亜化学に対し、また、興亜化学は原告に対しそれぞれ同額の金員を返済したことにし、現金の授受をすることなく、右各債権債務関係を清算したものである。その後同年四月一〇日原告と妹川らとの間において、右売買代金額は一六七三万円と決定され、同年八月末日までに残代金が支払われた。
2 仮に原告が本件不動産を代物弁済により取得したものであるとしても、旧措置法第三八条の六の規定の適用は否認されるべきでない。
すなわち、原告が興亜化学から同社が原告に対し負担している前記借入金債務の弁済に代えて同社の妹川らに対する債権を譲り受け、更に、右譲受債権及び原告の妹川らに対するその他の貸付金債権(合計一六七三万円)の代物弁債として本件不動産を取得したものとしても、原告の興亜化学及び妹川らに対する貸付金は、いずれも前記資産譲渡に係る収入金額を資金とするものであり、結果的には原告が右収入金額で本件不動産を取得したのと同一に帰する。しかして、旧措置法の右規定は、資産の売却代金で買換資産を取得した場合にのみ譲渡所得についての特例を認めようとするものであるから、旧施行令第二五条の六第二項の規定する「代物弁済としての取得」とは、資産譲渡に係る収入金額と関連のない債権の代物弁済として資産を取得する場合に限られ、右のように右収入金額そのものを貸付けて、その貸付債権の代物弁済として資産を取得したような場合は含まれないと解すべきであり、したがって、右の場合には旧措置法第三八条の六の規定が適用されるべきである。
3 本件不動産を事業の用に供した事実の有無について
原告は本件不動産を次のとおり賃貸することにより、旧措置法第三八条の六に規定する事業の用に供した。すなわち、原告は、(三)の建物及びその敷地である(二)の土地を昭和三九年一月一八日から同年四月一二日までますみ電機に対し、同月一三日から同年五月一〇日までマスミ電機に対し、同月一一日以降昭和四二年五月までトータス電工に対し、いずれも賃料一か月四万円で賃貸し、また、(四)の建物及びその敷地である(一)の土地を同年一月一八日以降昭和四二年五月までもみじ幼稚園に対し賃料一か月一万五〇〇〇円で賃貸した。しかして、右不動産の維持管理に必要な経費は、固定資産税(昭和四二年一万八〇八〇円、昭和四三年二万〇二〇〇円)及び火災保険料(昭和四〇年三月五日から一年間で一万二六六〇円)等にすぎず、右賃料は相当な利益を生ずる対価ということができる。
第五原告の主張に対する被告の認否及び反論
一 原告主張第四の二2について
旧措置法第三八条の六の規定は、個人が産業設備の整備強化等を図るためにその事業用資産の買換えを行った場合の資産譲渡に係る譲渡所得について設けられた特例であって、事業用資産を売却し、その受けた対価で代替のための資産を取得した場合を想定した制度である。したがって、資産譲渡の対価を貸付金として運用し、当該貸付金債権の弁済を受けるのに代えて資産を取得した場合も、旧施行令第二五条の六第二項に規定する「代物弁済としての取得」に該当するというべきである。
二 原告の主張同3の事実は争う。
第六証拠関係
一 原告
1 提出・援用した証拠
甲第一号証、第二、三号証の各一、二、第四号証の一ないし四、第五ないし第七号証の各一、二、第八、九号証、第一〇号証の一ないし四、第一一号証、第一二号証(妹川泰雄が昭和三八年夏ころ撮影した幼稚園及び庫裏の写真である。)、第一三ないし第二三号証及び第二四、二五号証の各一、二並びに証人妹川泰雄及び同亀田幸男の各証言
2 乙号証の認否
乙第四号証の一、二及び第七号証の成立は知らない。その余の乙号各証の成立は認める。
二 被告
1 提出・援用した証拠
乙第一ないし第三号証、第四号証の一、二及び第五ないし第七号証並びに証人妹川泰雄、同亀田幸男、同早川長三郎及び同波多野昇の各証言
2 甲号証の認否
甲第三号証の一、二、第四号証の一ないし四、第一〇号証の一ないし四、第一一号証、第二二号証及び第二四、二五号証の各一、二の成立(第一一号証については原本の存在及び成立)は認める。甲第七号証の二のうち官署作成部分の成立は認め、その余の部分の成立は知らない。甲第一二号証が原告主張の写真であること及びその余の甲号各証の成立は知らない。
理由
一、請求原因一の事実(本件処分の経緯)、被告主張第三の二の1の事実、同2の事実のうち、被告がその主張の加算を行って本件更正をしたこと及び本件不動産の取得価額につき旧措置法第三八条の六の規定の適用がないとした場合、原告の修正申告に係る所得金額に加算すべき金額が被告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
二、そこで、本件不動産の取得価額について旧措置法第三八条の六の規定の適用があるか否かについて判断する。
1 原告が昭和三九年中に本件不動産を取得したことは当事者間に争いがないところ、被告は、原告のした右不動産の取得は代物弁済によるものであると主張するので、以下、この点について検討する。
成立に争いがない甲第三号証の一、二、第四号証の一ないし四、乙第一、二号証、第六号証、証人妹川泰雄(後記採用しない部分を除く。)、同亀田幸男(後記採用しない部分を除く。)同早川長三郎、同波多野昇の各証言によれば、次の事実を認めることができる。
原告の長男亀田幸男がその代表取締役である興亜化学工業株式会社は、皮革加工業、金融業等を営んでいたが、昭和三八年九月ころ、当時経営不振に陥っていたますみ電機株式会社の代表取締役であった妹川泰雄から融資を申し込まれたので、原告から五二〇万円を借り受けたうえ、これを資金として同年一〇月一七日妹川らに対し四五〇万円を、弁済期を昭和三九年一月一六日とし、同日利息三〇万円を加算し、元利合計四八〇万円を返済するとの約定で貸付け(なお、右消費貸借については同月二四日に至り公正証書が作成されている。)その担保のため譲渡担保として常福寺から(一)、(二)の土地、妹川らから(三)の建物、ますみ電機から(四)の建物を各取得し、同月一八日売買名義で所有権移転登記手続を了した。その後も興亜化学は妹川らに対し昭和三八年一一月、一二月にそれぞれ三〇万円合計六〇万円を貸付けた(興亜化学が以上のとおり、原告からの借入金を資金として妹川らに貸付けをし、妹川らから譲渡担保として本件不動産を取得したことは、当事者間に争いがない。)しかるに、ますみ電機の業績は、右融資を受けた後も好転せず、妹川らは、右各借入金の返済のめども立たなかったため、本件不動産の受戻しを断念せざるを得ない状態に立ち至たった。そこで原告、興亜化学及び妹川らの三者間の清算の方法として、昭和三九年一月ころ右三者間において、妹川らは原告に対しその各所有に係る本件不動産の所有権を移転すること、これにより妹川らが興亜化学に対して負担する前記合計五四〇万円の債務、興亜化学が原告に対して負担する前記五二〇万円の借入金及び二〇万円の利息相当金額合計五四〇万円の債務を消滅させることとし、同年八月二八日付で興亜化学から原告に対し売買名義で本件不動産の所有権移転登記手続が行われた。その後右登記は錯誤を原因として抹消され、同年一〇月二九日付で興亜化学から売買名義で妹川らに対し所有権移転登記手続をしたうえ、改めて同日妹川らから原告に対し売買名義で所有権移転登記手続が行われた。
以上の事実が認められる。
もっとも、証人妹川泰雄、同亀田幸男はいずれも、原告は本件不動産を昭和三九年一月一〇日妹川らから売買により取得したものであり、その代金は契約後同年四月一〇日右両当時者間において合計一六七三万円と決められた旨供述しており、右両証人の各証言により真正に成立したと認める甲第一号証、第二号証の一、妹川泰雄の証言により真正に成立したものと認める甲第七号証の一、第一三号証ないし第二〇号証、官署作成部分の成立につき当事者間に争いがなく、その余の部分については証人妹川泰雄の証言により真正に成立したと認める甲第七号証の二には、右供述にそう記載がある。
しかしながら、甲第一号証(土地売渡契約書)によれば、売買の重要な要素である売買代金額が未定であるばかりか、売買代金額が合意に至らなくても売買契約が成立したものとするという、売買契約を証する書面としては極めて異例な条項が記載されており、右書面から直ちに(一)、(二)の土地につき売買による所有権移転があったものとみることはできない。次に甲第二号証の一によれば、妹川らが昭和三九年四月一日現在原告及び興亜化学に対し九三七万円の債務を負担しており、新会社設立に七三六万円の資金が必要であるから、合計一六七三万円の資金の手当として(一)、(二)の土地を売却する旨の記載がみられ、証人亀田幸男はこれにそう供述している。しかしながら、証人亀田幸男の証言により真正に成立したと認められる甲第二三号証及び証人早川長三郎の証言によれば、右土地は、当時坪一万円からせいぜい坪二万六千円程度であって、一六七三万円もの価格を有していたとは到底認められず、また甲第二号証の一及び証人亀田幸男の証言によれば、前記五四〇万円のほか、昭和三九年一月までに原告は直接妹川に対し数回にわたり合計三七〇万円を貸付け、この貸付金は無担保、無利息であったというのであるが、右証人の証言によれば、興亜化学は金融をも業とし、不動産を担保に融資する場合、せいぜい時価の半値程度までしか融資しないのを通例としていたことが認められるから、原告又は興亜化学が前記認定の貸付金以外に多額の債権を有したということは極めて不自然であるのみならず、証人波多野昇の証言によって認められるところの本件更正に対する審査請求手続段階においては、甲第二号証の一は提示されず、また、妹川も右手続における調査に対し四〇〇万円と直接他に返済してもらった五〇万円との合計四五〇万円以外には一切融資を受けていなかったと述べていた事実及び前掲乙第一号証によって認められるところの昭和四三年九月当時における妹川の被告係官に対する供述内容をもあわせて考えると、原告又は興亜化学がますみ電機の経営資金を出捐していたかどうかは別として、妹川らが原告に対しはたして右債務を負担していたかどうかは極めて疑わしい。成立に争いのない甲第二二号証も右の認定を左右するに足るものとはいえない。のみならず、成立に争いのない乙第三号証及び証人亀田幸男、同妹川泰雄、同波多野昇の各証言によれば、昭和三九年四月一三日新たに設立されたマスミ電機株式会社(後にトータス電工株式会社と商号を変更)は、亀田幸男の設立に係る会社であって、同人が最大の株主であり、最初の代表取締役は亀田幸男であったこと、妹川は右会社に対し何等出資していないことが認められる。したがって、右会社の資本金及び経営資金を妹川らが全て負担しなければならないとするのは不自然であるから、妹川らが新会社設立に要する資金七三六万円を捻出するため、原告が妹川らに対し、右七三六万円を売買代金として支払う旨の前記のような約定があったとは到底認めることができない。
以上の認定によれば、原告による本件不動産の取得については、売買による取得であるかのような形式がとられているけれども、原告、興亜化学及び妹川らの三者間の合意により、原告の興亜化学に対する五四〇万円の債権、興亜化学の妹川らに対する同額の債権を消滅させる代わりに、妹川らが興亜化学に譲渡担保に供していた本件不動産を原告に譲渡し、三者間の債権債務を決済したと認めるべきであるから、原告は五四〇万円の債権に対する代物弁済として右不動産を取得したものとみるのが相当であり、したがって、旧施行令第二五条の六第二項に該当するというべきである。
証人妹川泰雄、同亀田幸男の各証言、前掲甲第一号証第二号証の一、第七号証の一、二、第一三号証ないし第二〇号証成立に争いのない乙第六号証の各記載のうち、右認定に反する部分は採用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
2 原告は、本件不動産の取得が代物弁済によるものであるとしても、本件は、原告が前記資産譲渡に係る収入金額を資金として金員を貸付け、その貸付債権の弁済を受けるのに代えて本件不動産を取得したのであって、結果的には右収入金額で本件不動産を取得したのと同一に帰するから、旧施行令第二五条の六第二項にいう「代物弁済としての取得」には該当しないと主張する。
しかしながら、旧措置法第三八条の六の規定は、設備等の更新による産業設備の合理化及び近代化、工場移転による産業立地の改善等を図るという政策目的をもって設けられたものであって、事業用資産を売却し、その受けた対価で代替のための資産を積極的に取得した場合を予定した制度といわなければならない。したがって、本件のように積極的に資産の買換えを企図したものでなく、資産譲渡の対価を貸付金として運用し、たまたま、当該貸付金債権の弁済を受けるのに代えて資産を取得した場合を旧施行令第二五条の六第二項の「代物弁済としての取得」から除外して解すべき理由はないというべきである。よって原告の右主張は失当である。
3 したがって、原告による本件不動産の取得は代物弁済による取得であって、旧措置法第三八条の六の規定の適用を受けないといわなければならない。そればかりではなく、原告が本件不動産をその取得の日から一年以内に事業の用に供した事実が認められないことは、次に認定するとおりであって、この点からも本件不動産の取得価額について同条の適用は認められないといわなければならない。
すなわち、原告は、本件不動産を昭和三九年中にますみ電機及びもみじ幼稚園等に賃貸することにより、事業の用に供したものである旨主張する。そして、証人妹川泰雄及び同亀田幸男は、右原告主張にそう供述をしており、右各証人の証言により真正に成立したと認める甲第五号証の一、二、第六号証の二には右原告主張にそう記載がある。
しかしながら、トータス電工との間の契約書である甲第五号証の二は、昭和三九年四月二日付で作成されているが、証人亀田幸男の証言及び前掲乙第三号証によれば、右時点においてはトータス電工はもちろんその前身であるマスミ電機も設立されていなかったことが認められる。また、原告からますみ電機への延滞賃料の催告書である甲第五号証の一も、昭和四二年八月に至って昭和三九年一月から三月までの分の延滞賃料を催告するという極めて不自然なものであって、右各書面はその真実性が疑わしい。のみならず、成立に争いのない甲第一〇号証の一ないし四、証人妹川泰雄、同亀田幸男の証言(いずれも後記採用しない部分を除く。)によれば原告は、本件不動産を貸付けるに際し、相手方から権利金等は受け取っておらず、貸付期間中を通じて賃料の支払いは一度も受けていないこと、もみじ幼稚園は、順調に運営されており、賃料支払いができない経営状態ではなかったこと、原告は賃料の支払いを受けていないにもかかわらず、契約を解除して明渡を求める等の手段は講じていないし、本件不動産の賃貸による不動産所得について、確定申告においては申告していなかったのに、昭和四三年一月に至って昭和三九年度にさかのぼり修正申告によりこれを申告していることが認められ、また、マスミ電機(後にトータス電工と商号を変更)は、原告の長男亀田幸男の設立に係る会社であって、同人が最初代表取締役に就任し、かつ、同人が最大の株主であったことは前認定のとおりである。
以上の事実関係のもとでは、原告がますみ電機、もみじ幼稚園等に本件不動産を賃貸し、これを事業の用に供していたものとは認めることはできない。前掲甲第五号証の一、二、第六号証の二は、賃貸借関係を仮装するために作成されたものと認める他なく、採用することはできないし、証人妹川泰雄、同亀田幸男の証言のうち、原告主張にそう部分も右認定に照らし採用できない。そして、他に原告主張事実を肯認するに足る証拠はない。
4 そうすると、本件不動産の取得に係る二七六七万円について旧措置法第三八条の六の規定の適用を否認してされた本件更正に違法はないといわなければならない。
三、以上によれば、原告の本件請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 三好達 裁判官 時岡泰 裁判官 青柳馨)
別表
<省略>
別紙
物件目録
(一) 茨城県土浦市大字下高津字堂後一二三七番
宅地 二七三坪
(二) 同所一二三六番一
宅地 一八九坪
(三) 同市下高津字堂後一二三六番一
家屋番号同町一二三六番一
木造瓦葺平家建工場一棟 床面積四二・三五坪
(四) 同市下高津字西側三八三番地一
家屋番号同町二三六番 二
木造瓦葺平屋建工場一棟 床面積二七坪